2026/10/11

ルールベースAIとは?例でわかる機械学習・生成AIとの違いと、電話対応での使い分け

「ベンダーの資料に『シナリオ型』『ルールベース』『生成AI型』と並んでいるけれど、何が違うのか分からない」「生成AIのほうが新しいなら、今のIVRは入れ替えたほうがいいのだろうか」。電話窓口の自動化を検討する中で、こうした疑問を抱える担当者は少なくありません。ルールベースAIとは、人があらかじめ決めた「もし〇〇なら△△する」というルールどおりに判断する仕組みのことです。答えが決まっている用件は毎回同じように正確に処理できる一方、ルールにない言い方には答えられません。電話窓口では、番号の入力や手続きの受付はルールベース、言い方が人によって違う質問は生成AI、と用件ごとに分けるのが現実的な選び方です。本記事では、ルールベースAIの仕組みと機械学習・生成AIとの違いを整理したうえで、IVR・シナリオ型ボイスボット・生成AI型ボイスボットの使い分けを解説します。用件ごとにどの方式が向くかは、記事の中ほどにある「電話の用件ごとにどれを選ぶ?」の表で確認できます。

目次

・ルールベースAIとは?

・ルールベースAIと機械学習・生成AIの違いは?

・ルールベースAIのメリット

・ルールベースAIのデメリット

・電話窓口のルールベースAIは何を指す?

・電話の用件ごとにどれを選ぶ?

・ルールベースと生成AIを組み合わせる方法

・ルールベースで電話の自動化を始める5つのステップ

・よくある質問

・まとめ

ルールベースAIとは?

ルールベースAIとは、人が書いたルールに沿って、入力に対する答えや処理を決める仕組みです。「ルールベース型AI」「ルールベースシステム」と呼ばれることもあります。ここでは、仕組みと成り立ち、身近な例の順に見ていきます。

If-Thenのルールで判断する仕組み

ルールベースAIの判断は、「もし(If)〇〇なら、(Then)△△する」という条件と結果の組み合わせでできています。例えば「会員番号が登録済みなら、本人確認へ進む」「登録がなければ、新規受付へ案内する」といった形です。

ルールは1つずつ見れば単純ですが、何十、何百と組み合わせることで、専門家の判断に近い処理もできるようになります。逆に言えば、組み合わせたルールの外側については、何も判断できません。ルールベースAIの性格は、この「書いた範囲では正確、書いていない範囲では何もできない」という一点に集約されます。

ナレッジベースと推論エンジン

ルールベースAIは、ルールをためておく「ナレッジベース」と、入力に合うルールを探して当てはめる「推論エンジン」の2つで動きます。ナレッジベースは業務の判断基準を書き出した辞書、推論エンジンはその辞書を引いて答えを出す係、と考えると分かりやすいでしょう。

この分け方には実務上の利点があります。業務の変更があっても、直すのはナレッジベースのルールだけで、推論の仕組みには手を入れずに済みます。問い合わせ対応で使うナレッジベースも、考え方は同じです。

エキスパートシステムから始まった歴史

ルールベースの考え方が広く使われたのは、1980年代の第2次AIブームです。総務省の「令和6年版 情報通信白書」は、この時期にコンピュータの計算能力が向上し、専門家の知識をルールとして組み込んだエキスパートシステムが台頭したと説明しています(出典:総務省 令和6年版 情報通信白書「第1〜3次AIブームと冬の時代」)。

同じ白書は、知識を人の手で記述するのに膨大な労力がかかること、曖昧な知識や複雑な環境の変化に対応できないことが課題になったとも書いています。2000年代以降、大量のデータから自動でパターンを学ぶ機械学習・ディープラーニングが主役になったのは、この課題を越えるためでした。ただし、ルールベースが消えたわけではありません。正確さと説明が求められる業務では、今も中心的に使われています。

身近なルールベースAIの例

ルールベースAIは、AIと意識されないまま日常の業務に入り込んでいます。代表的なのは、次のような仕組みです。

  • 電話の自動音声ガイダンス(IVR)で「〇〇の方は1番を」と案内し、押された番号で窓口を振り分ける
  • 選択肢をクリックしていくと回答にたどり着くシナリオ型のチャットボット
  • 経費精算で、規程の上限を超えた申請だけを差し戻すチェック
  • 在庫が一定数を下回ったら発注をかける仕組み

どれも「条件がそろえば決まった処理をする」点が共通しています。電話窓口でいえば、多くの企業がすでに使っているIVRが、ルールベースAIのいちばん身近な例です。

ルールベースはAIと呼べるのか?

呼び方の問題で、AIに含めるのが一般的です。先の白書のとおり、エキスパートシステムは第2次AIブームの中心にあった技術で、AIの歴史の一部として扱われています。

一方で、現在「AI」という言葉はデータから学習する仕組みを指すことが多く、単純な条件分岐を「AI」と呼ぶことに違和感を持つ人もいます。導入を検討する場面では、呼び方よりも「判断を人が書いたルールで決めるのか、データから学んだモデルで決めるのか」を確認するほうが、選定を誤りません。

ルールベースAIと機械学習・生成AIの違いは?

最大の違いは、判断のもとになるものを誰が作るかです。ルールベースAIは人が書いたルールで判断し、機械学習はデータから学んだパターンで判断し、生成AIは大量の文章から学んだ言葉のつながりをもとに、その場で答えの文章を作ります。

ルールベースAI・機械学習・生成AIの3つを、判断のもとと同じ質問への答え方で比べた図

3つを同じ項目で並べると、次のようになります。

比べる点 ルールベースAI 機械学習 生成AI
判断のもと 人が書いたルール データから学んだ
パターン
大量の文章から学んだ
言葉のつながり
始めるのに
必要なもの
業務の手順と
判断基準
正解付きの
大量のデータ
参照させる資料と
指示の文章
同じ入力への
答え
毎回同じ 同じモデルなら同じ
(学習し直すと変わる)
毎回少しずつ
変わることがある
想定外の入力 答えられない 近いものとして
推定する
それらしく答える
(誤りが混ざることがある)
判断の理由 どのルールが働いたか
たどれる
説明しにくい 説明しにくい
直し方 ルールを書き換える データを足して
学習し直す
資料や指示の文章を
見直す

機械学習とは何が違う?

違いは、判断基準を人が書くか、データから自動で作るかです。機械学習は、大量のデータの中から「この特徴があれば、この答えになりやすい」というパターンを、コンピュータが自分で見つけ出します。

そのため、機械学習は人が言葉にしにくい判断を得意とします。例えば、人の声を文字に変える音声認識は、話し方や声の高さが一人ひとり違うため、ルールで書き切ることはできません。大量の音声データから学ぶ機械学習の領域です。反対に、学習に使うデータが少ない業務や、判断の理由を説明しなければならない業務では、ルールベースのほうが扱いやすくなります。

生成AIとは何が違う?

ルールベースAIは、用意しておいた答えの中から、条件に合うものを選んで返します。生成AIは、質問を受けてから答えの文章をその場で作ります。使える場面がはっきり分かれるのは、この違いのためです。

生成AIは、言い方がばらばらな質問でも意図をくみ取り、自然な文章で答えられます。一方で、答えは確率的に作られるため、同じ質問でも毎回少しずつ表現が変わり、事実と違う内容をもっともらしく答えてしまうこと(ハルシネーション)も起こり得ます。料金や手続きの条件を1文字も違えずに伝えなければならない場面では、この性質がそのまま弱点です。電話窓口での生成AIの使い方は、コールセンターでの生成AI活用でも詳しく紹介しています。

AIエージェントとはどう関係する?

AIエージェントは、生成AIを頭脳にして、目的に向けて自分で手順を選び、ほかのシステムを操作しながら仕事を進める仕組みです。ルールベースAIが「決められた手順をなぞる」のに対し、AIエージェントは「手順そのものを考える」点で正反対の位置にあります。

ただ、実際の業務では両者を組み合わせることが多く、AIエージェントが用件を判断し、決まった手続きはルールどおりの流れに渡す、という分担が一般的です。詳しくはAIエージェントとはで解説しています。

ルールベースAIのメリット

ここからは、ルールベースAIを選ぶ理由になる4つの強みを紹介します。どれも「想定した範囲の中では、確実に動く」という性格から生まれています。

① 動きを予測でき、判断の理由を説明できる

ルールベースAIは、同じ入力に対して必ず同じ答えを返します。どのルールが働いてその答えになったのかを後からたどれるため、お客様や監督官庁に「なぜこの案内をしたのか」を説明できます。

金融・保険・医療・行政など、誤った案内が大きな問題になる業界でルールベースが使われ続けているのは、この説明のしやすさがあるからです。テストの段階で全ての分岐を確かめておけば、本番で予想外の答えを返すことはありません。

② 学習データがなくても始められる

機械学習は、正解付きのデータを大量に集めるところから始まります。ルールベースAIに必要なのは、業務の手順と判断基準を書き出すことだけです。

新しく始めるサービスの窓口のように、過去の問い合わせデータがまだたまっていない場面でも、手順さえ決まっていれば初日から動かせます。いま現場のベテランが頭の中で使っている判断基準を、紙に書き出すところから着手できるのも利点です。

③ 決めた範囲の外の案内をしない

ルールベースAIは、書かれていない答えを勝手に作りません。案内してよい内容だけをルールにしておけば、それ以外のことを話してしまう心配がないということです。

生成AIを使う場合は、参照する資料を限ったり、答えてはいけない話題を指定したりと、範囲の外に出ないための工夫が別に必要になります。ルールベースでは、その範囲が最初から決まっています。

④ 費用と期間を見積もりやすい

作るものはルールの数と分岐の深さで決まるため、どのくらいの作業量になるかを事前に見積もりやすい傾向があります。学習のやり直しや、答えの品質を確かめ続ける作業も発生しません。

運用が始まってからの変更も、どのルールを直すかが特定できるため、影響の範囲を確かめながら進められます。

ルールベースAIのデメリット

強みの裏返しとして、ルールベースAIには3つの限界があります。導入前に知っておけば、使う場所を誤らずに済みます。

① 想定していない言い方や用件に答えられない

ルールにない入力が来ると、ルールベースAIは「分かりません」と返すか、決められた例外の処理に回すしかありません。お客様が言葉を言い換えたり、複数の用件をまとめて話したりすると、そこで止まってしまいます。

電話放送局が50〜70代の男女241名に行った調査でも、ボイスボットを使うときの不安として「想定外の用件に対応できない」が19.5%に上り、「聞き取り精度への不安」(22.4%)、「二度手間ではないか」(22.0%)と並んで上位に入りました(出典:コールセンター利用とAI自動応答(ボイスボット)に関する意識調査)。想定外の用件が来たときに、どこへ逃がすかを決めておくことが欠かせません。

② ルールが増えるほど管理が難しくなる

対応できる範囲を広げようとルールを足していくと、ルール同士が矛盾したり、どの順番で当てはめるかが分からなくなったりします。最初は数十だったルールが数百になると、1つを直したときにほかのどこに影響が出るかを追いきれません。

電話の自動音声でいえば、選択肢を足し続けた結果、お客様が目的の窓口にたどり着くまでに何度も番号を押す流れになりがちです。同じ調査では、コールセンターで嫌だった経験として「自動音声のプッシュ番号操作が複雑」が17.0%挙がっています(出典:意識調査)。

③ 言葉にできない判断は書けない

ルールにできるのは、言葉で書き表せる判断だけです。ベテランのオペレーターが声の調子からお客様の不安を察して説明を変える、といった判断は、条件と結果の組み合わせには落とし込めません。

このような判断が多い業務を、無理にルールベースで自動化しようとすると、ルールが膨らむだけで成果が出にくくなります。人が対応すべき業務として残すか、生成AIや機械学習に任せるかを考える領域です。

電話窓口のルールベースAIは何を指す?

電話窓口で使われている自動応答は、大きく分けて、プッシュ操作のIVR、シナリオ型ボイスボット、生成AI型ボイスボットの3つです。このうち前の2つは、判断をルールで行うルールベースの仕組みにあたります。

プッシュ操作のIVR、シナリオ型ボイスボット、生成AI型ボイスボットの3方式を、お客様の操作と判断の仕方で比べた図

方式 お客様の操作 向いている用件 苦手なこと
プッシュ操作の
IVR
番号のボタンを押す 窓口の振り分け
番号・日付の入力
支払いの手続き
名前や理由など
自由な言葉の受付
シナリオ型
ボイスボット
決まった質問に
声で答える
予約・申込・再配達など
聞く項目が決まった受付
質問の順番から
外れた話
生成AI型
ボイスボット
用件を自由に話す 言い方がばらばらな
問い合わせやFAQ
一字一句の正確さが
求められる案内

プッシュ操作のIVRはルールベースそのもの

プッシュ操作のIVRは、「1番が押されたら料金の案内へ」「2番なら手続きの窓口へ」という分岐だけで動く、もっとも純粋なルールベースの仕組みです。お客様が押せるのは0〜9と*・#のボタンに限られるため、想定外の入力が起こりにくく、聞き間違いもありません。

カード番号や会員番号、生年月日のように、1文字の誤りも許されない情報は、今でもプッシュ入力で受けるのが確実です。ガイダンスの組み立て方は電話音声ガイダンス(IVR)の作り方で解説しています。

シナリオ型ボイスボットは聞き取りと判断が別の仕組み

シナリオ型ボイスボットは、「お名前をお話しください」「ご希望の日にちをお話しください」と決まった順番で質問し、お客様の声を聞き取って受付を進めます。実は1本の電話の中で、2つの仕組みが別々に動いています。

聞き取りは機械学習の音声認識

お客様の声を文字にする部分は、機械学習で作られた音声認識です。人の声は一人ひとり違うため、ここをルールで書くことはできません。聞き取りの精度は100%にはならないため、聞き間違いへの備えが必要になります。

次に何を聞くかはルールで決まる

聞き取った内容をもとに次の質問へ進む部分は、あらかじめ書いたシナリオ、つまりルールです。どの順番で何を聞き、どの答えなら次へ進み、どの答えならオペレーターに回すかは、すべて人が決めています。

ルールベースと呼ばれるのは判断の部分

ベンダーの資料で「シナリオ型」がルールベースに分類されるのは、この判断の部分を指しています。「AIボイスボット」と書かれていても、聞き取りにAIを使い、判断はルールで行う製品は少なくありません。導入を検討するときは、「聞き取り」と「判断」のそれぞれを何で行っているかを確認すると、製品の性格がはっきりします。

生成AI型ボイスボットは判断そのものをAIが行う

生成AI型(AIエージェント型)のボイスボットは、お客様が自由に話した内容から用件をくみ取り、答えの文章もその場で作ります。決まった順番の質問に縛られないため、「先月の請求のことなんだけど、引き落とし日も変わったんだっけ」のような話し方にも対応できます。

その分、答えの内容を事前に全て確かめておくことはできません。参照させる資料の範囲を絞る、答えてはいけない話題を決めておく、といった設計が、ルールベースにはない新しい作業になります。生成AI型とシナリオ型の違いは、AIボイスボットと従来型の違いでも比べています。

電話の用件ごとにどれを選ぶ?

答えは、方式ではなく用件で決めることです。1つの窓口に入ってくる電話には、番号の入力が必要な手続きもあれば、言い方が人によって違う質問もあります。どれか1つの方式で全部を受けようとすると、どこかで無理が出ます。

まずは、自社の窓口に入ってくる用件を次の表に当てはめてみてください。左の列で自社の用件に近い行を探せば、右の列に向いている方式があります。

用件の特徴 そのまま自動化すると
起きやすいこと
向いている方式
番号・日付・金額など
1文字の誤りも
許されない入力
音声だと聞き間違いが
起きる
プッシュ操作のIVR
選択肢が数個に
決まっている
(窓口の振り分けなど)
選択肢が多いと
最後まで聞かれない
プッシュ操作のIVR
またはシナリオ型
名前・住所・希望日など
聞く項目は決まっているが
答えが自由
ボタンでは
入力できない
シナリオ型ボイスボット
+SMSでの内容確認
解約理由やご意見など
自由に話してほしい
選択肢に当てはまらない
声が埋もれる
音声で受け付け、
生成AIで分類
同じ質問を
人によって違う言い方でする
(FAQ)
シナリオの分岐が
膨らみ続ける
生成AI型ボイスボット
(参照する資料を限定)
契約内容の複雑な変更
判断に迷っている相談
自動応答では
解決しにくい
オペレーターへ転送
苦情・緊急の連絡 自動応答で待たせると
不満が大きくなる
早い段階で
オペレーターへ

正確さが要る入力はプッシュ操作で受ける

会員番号や電話番号のように、1桁違えば別のお客様になってしまう情報は、プッシュ操作で受けるのがいちばん確実です。音声認識がどれほど進んでも、ボタンの入力は聞き間違えようがありません。

健康補助食品を販売する日本予防医薬株式会社は、解約の電話で、電話番号・顧客番号・郵便番号をプッシュ入力で受けています。正確さが求められる情報はプッシュ入力、解約理由のような自由な回答は音声、と1本の電話の中で受け方を分けているのが特徴です(出典:導入事例 日本予防医薬株式会社)。プッシュ操作と音声の分け方は、ボイスボットと相性が良い業務でも整理しています。

自由な言葉は音声で聞き取り、文字で確かめてもらう

名前や住所のように、聞く項目は決まっていても答えが一人ひとり違う情報は、シナリオ型ボイスボットの出番です。ただし、聞き取りの精度は100%ではないため、聞き間違いをどこで正すかまで決めておく必要があります。

株式会社ダスキンは、エアコンクリーニングの受付で、自動音声が住所や名前などを聞き取ったあと、SMSでマイページのURLを送り、お客様自身に受付内容を確認・修正してもらう仕組みを取り入れました。同社は導入の決め手として、音声認識の精度はどの会社のサービスも100%ではないため、この確認の仕組みで正確な情報を取得できる点を挙げています。現在では、エアコンクリーニングの注文の約10%を自動音声の受付でまかなっています(出典:導入事例 株式会社ダスキン)。

言い方がばらばらな質問は生成AIに任せる

「返品したい」「送り返したい」「間違って買った」のように、同じ用件でも言い方が人によって大きく違う問い合わせは、シナリオで分岐を書くと際限なく膨らみます。こうした用件は、生成AIに意図をくみ取らせるほうが向いています。

その際は、生成AIが答えの根拠にする資料を、自社のFAQやマニュアルに限るのが基本です。社内の資料を検索してから答えを作るRAGという仕組みを使えば、範囲の外の答えを作るリスクを抑えられます。案内の土台になるFAQの整え方は、FAQチャットボットとはが参考になります。

人に回す用件を先に決めておく

どの方式を選んでも、自動応答で受けないほうがよい用件は残ります。先の意識調査で、人のオペレーターに対応してほしい場面として多かったのは「契約内容の複雑な変更」(49.4%)、「判断に迷っていて相談したいとき」(36.1%)でした(出典:意識調査)。

一方、同じ調査では、ボイスボットのほうが話しやすい場面があると答えた人が全体の70.5%に上り、場面として最も多かったのは「解約・退会の手続き」(35.3%)でした。自動化に向く用件と人が受けるべき用件は、お客様の側でもはっきり分かれているということです。どの用件で、どの時点でオペレーターに回すかを、ルールとして最初に書いておくのが確実です。

ルールベースと生成AIを組み合わせる方法

実際の電話窓口では、どれか1つの方式を選ぶより、1本の電話の中で役割を分けるほうが成果につながります。ここでは、組み合わせ方を3つ紹介します。

番号はプッシュ入力、理由は音声で受け付け、生成AIで分類して社内システムへ渡す、1本の電話の中での役割分担を示した図

1本の電話の中で役割を分ける

日本予防医薬株式会社の解約受付は、組み合わせ方の分かりやすい例です。お客様を特定する番号はプッシュ入力で受け、解約理由は自由に話してもらって音声をテキストにします。データはAPIで社内システムに取り込まれ、RPAが電話番号や顧客番号を照合してお客様を特定する流れです。

そのうえで、「在庫がたまってきました」「ちょっと価格が高いです」といった発言を、生成AIが「余っている」「経済的な理由」のようなシステムで扱える項目に自動で分類しています。その結果、年間7万件の解約電話のうち40.9%が完全に自動で完結するようになり、年間3,800時間の削減につながりました(出典:導入事例 日本予防医薬株式会社)。

正確さが要るところはルール、言葉の意味をくみ取るところは生成AI、決まった照合作業はRPAと、それぞれが得意な部分だけを受け持っています。

生成AIを「受けたあと」の整理に使う

生成AIをお客様との会話に使うことにためらいがある場合は、会話はルールで進め、受け付けた内容の整理にだけ生成AIを使う方法があります。お客様に聞こえる案内はすべて事前に確かめた文言のままなので、誤った案内をするリスクは増えません。

ネスレ日本株式会社は、解約を希望するお客様にIVRで登録電話番号と解約理由を自由に話してもらい、受け付けた内容を管理画面にデータとしてためて、解約希望者のリストが自動でできる形にしました。人はそのリストをもとに折り返しの電話をかけます。インバウンドとアウトバウンドの人員配置が適正になり、対象業務のコストを45%削減しています(出典:導入事例 ネスレ日本株式会社)。こうして録音された自由な声を、日本予防医薬株式会社のように生成AIで分類すれば、解約理由の傾向まで数字で追えるようになります。

最初の用件の判断をAIに任せる

もう1つの組み合わせ方は、電話の入口で用件をAIに判断させ、その先をそれぞれの方式に振り分ける形です。お客様は番号のメニューを最後まで聞かずに用件を話すだけで済み、その後の手続きは確実なルールの流れで進みます。

電話放送局のDHK CANVASも、この考え方で作られています。AIが要件を判断し、FAQはAIの自動応答、定型業務はシナリオ、複雑な対応は生成AI、クレームはオペレーターへの転送、と対応方法を選び分けます(出典:DHK CANVAS)。生成AIとボイスボットの組み合わせ方は、生成AI×ボイスボットでできることでも紹介しています。

ルールベースで電話の自動化を始める5つのステップ

ここまでの内容を、実際に手を動かす順番に並べ直します。方式を選ぶ前に、まず自社の電話の中身を分けて見るところから始めるのが近道です。

ステップ1 入電の理由を集計する

1か月分の電話を、用件ごとに数えます。「住所変更」「解約」「配送状況の確認」「料金の質問」のように分けて件数を出すと、どの用件が多いかが一目で分かるはずです。

この入電理由のことをコールリーズンと呼びます。集計の方法はコールリーズン分析とはで詳しく解説しています。

ステップ2 自動で終わらせる用件と人が受ける用件を分ける

集計した用件を、先の「電話の用件ごとにどれを選ぶ?」の表に当てはめます。自動で完結できる用件、自動で受け付けて人が後から対応する用件、最初から人が受ける用件の3つに分けてください。

前橋市の国民健康保険課は、年間約3万2千件の電話をすべて職員が受けていました。コールリーズンの分析をもとに「自動音声の案内で解決できる内容」と「職員が直接耳を傾けるべき内容」を仕分けし、問い合わせの多い項目から順に音声ガイダンスを作っています(出典:導入事例 前橋市)。

ステップ3 分岐を図に書き出す

自動で受ける用件について、「何を聞き、どの答えならどこへ進むか」を図に書き出します。これがルールベースAIのルールそのものになります。

想定外の答えの行き先を決める

書き出すときは、想定どおりの流れだけでなく、聞き取れなかったとき、ルールにない答えが来たときの行き先を必ず決めます。オペレーターへの転送、折り返しの予約、SMSでの案内など、止まらずに次へ進める出口を用意しておくことが大切です。電話の流れを図にする方法は、コールフローとはで紹介しています。

生成AIに渡す部分を決める

分岐を書いていく中で、言い方が多すぎてルールにしきれない箇所が出てきたら、そこが生成AIに任せる候補です。全部をルールで書こうとせず、書きにくい部分だけを切り出すと、組み合わせの設計がしやすくなります。

ステップ4 案内の言葉を絞る

ルールを作ると、つい丁寧に説明を足したくなります。しかし、案内が長くなるほどお客様は途中で迷い、電話を切ってしまいます。

前橋市は、行政としての正確な情報提供という軸は変えずに、過剰な説明を省いて「あえて情報を絞り込む」方針に切り替えました。不要なアナウンスを削ったことで、市民が途中で迷いにくい流れになり、電話応対時間は年間約550時間削減、自動音声で案内が完結する割合は約20%に達しています。懸念していた大きなクレームやトラブルも、ほぼ0件です(出典:導入事例 前橋市)。

ステップ5 切れた場所と転送の理由を見て直す

運用を始めたら、お客様がどの質問で電話を切ったか、どの用件でオペレーターに転送されたかを定期的に確かめます。同じ場所で切れる電話が多ければ、その質問の言い方や順番に問題がある可能性が高いでしょう。

ルールベースAIは、運用しながら直していける点も強みです。転送の理由に同じ用件が繰り返し出てくるなら、それは新しいルールに加える候補になります。逆に、ルールが増えすぎて管理しにくくなってきたら、その部分を生成AIに任せる時期と考えてよいでしょう。

よくある質問

Q. ルールベースAIと生成AIは、どちらが優れていますか?

どちらが優れているかではなく、得意な用件が違います。答えが決まっていて正確さが求められる手続きはルールベースAI、言い方が人によって違う質問に答えるのは生成AIが向いています。電話窓口では、両方を用件ごとに使い分けるのが一般的です。


Q. シナリオ型チャットボットはルールベースAIですか?

はい、ルールベースAIに分類されます。選択肢を選んでいくと決まった回答にたどり着く仕組みは、人が書いたルールに沿って分岐しているためです。チャットボットの種類ごとの違いは、チャットボットの種類と特徴で整理しています。


Q. 生成AIが広がると、ルールベースAIは不要になりますか?

不要にはなりません。生成AIは同じ質問でも答えが変わることがあり、判断の理由を説明しにくいため、料金や契約の手続きのように一字一句の正確さが求められる場面には向きません。生成AIが増えるほど、正確さが要る部分をルールで固める役割はむしろはっきりしていきます。


Q. 今使っているプッシュ操作のIVRは、生成AI型に置き換えるべきですか?

全てを置き換える必要はありません。番号の入力や窓口の振り分けのように、プッシュ操作で問題なく完結している用件は、そのまま残すほうが確実です。選択肢が多すぎて途中で切られている箇所や、ボタンでは受けられない用件から、音声や生成AIを足していくのが現実的です。


Q. ルールの作成や変更は自社でできますか?

管理画面からノーコードで分岐を作れるサービスであれば、自社の担当者でも作成・変更が可能です。日本予防医薬株式会社も、専門知識がなくても実務担当者が業務に合わせてコールフローを設計・変更できる点を評価しています。ただし最初の設計は、入電理由の集計や想定外の答えの行き先まで決める必要があるため、提供会社の支援を受けながら進めると手戻りが少なくなります。


Q. 高齢のお客様が多い窓口でも、ルールベースの自動応答は使えますか?

使えます。ただし、プッシュ操作の階層を深くしない、案内を短くする、聞き取れなかったときはすぐに人へ回す、といった配慮が欠かせません。50〜70代を対象にした電話放送局の調査でも、ボイスボットのほうが話しやすい場面があると答えた人は70.5%に上っており、用件を選べば受け入れられやすいことが分かっています。

まとめ

ルールベースAIは、人が決めたルールどおりに判断するため、決まった手続きを毎回同じように正確に処理できます。一方で、ルールにない言い方や用件には答えられません。機械学習はデータから判断を学び、生成AIはその場で答えを作るため、柔軟さと引き換えに、答えを事前に確かめきれないという性質を持っています。

電話窓口で方式を選ぶときの分かれ目は、「その用件は答えが決まっているか、言い方が人によって違うか」です。番号の入力や手続きはプッシュ操作のIVRやシナリオ型ボイスボット、言い方がばらばらな質問は生成AI、判断に迷う相談は人、と用件ごとに受け持ちを決めれば、どれか1つの方式に無理をさせずに済みます。

最初の一歩として、直近1か月の電話を用件ごとに数え、本記事の用件別の表に当てはめてみてください。株式会社電話放送局では、プッシュ操作のIVRから生成AIを組み合わせたボイスボットまで、用件の仕分けとシナリオの設計から運用後の改善まで伴走しています。実際の使われ方は導入事例もあわせてご覧ください。

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監修者情報

メーカーのコールセンター運営管理に従事し、自らIVRを導入。
不要な入電を抑制しつつ売上向上を実現するなど、現場視点で成果を創出。電話放送局では営業マネージャーとして10年以上従事し、クラウド型IVRの業界シェア1位獲得に貢献。
コロナ禍におけるユーザーのデジタル行動変容を受け、マーケティング部門を立ち上げ、責任者に就任。インサイドセールスを統括し、営業部門との連携を強化。自動音声応答の導入、運用、集客、営業の幅広い経験を有する。
IVRおよびコールセンター市場における20年以上の知見を活かし、ユーザーの検索行動やニーズを深く理解したマーケティング戦略を展開。
検索連動広告の運用経験を基に、現場で役立つ実践的な情報を発信し、読者のビジネス成功を力強くサポートします。

監修者 前田泰延(株式会社電話放送局) マーケティング責任者 営業部営業推進課 課長 前田泰延

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