2026/10/11

コールセンターの通話録音に開示義務はある?違法性と保存期間、告知文の例を解説

「お客様から『あの電話の録音を送ってほしい』と言われたけれど、渡さなければいけないのだろうか」「録音していますというアナウンスを流していないが、違法にならないか心配だ」。コールセンターの運営や管理を任されている方から、こうした声をよく聞きます。結論からいうと、コールセンターの通話録音そのものを禁じる規定は個人情報保護法になく、録音している旨を伝える義務もありません。ただし、通話の内容が個人情報にあたるなら利用目的の通知か公表が必要で、電話番号などで検索できる形で保存した録音は、本人から開示を求められたら遅滞なく開示する義務があります(個人情報保護法第33条)。本記事では、条文と個人情報保護委員会の公表資料をもとに、通話録音の違法性と開示義務の考え方を整理し、場面別の告知文の例と、開示請求を受けたときの対応手順を表で紹介します。
なお、本記事は2026年10月7日時点の法令と公表資料にもとづく一般的な解説です。個別の事案が違法かどうかを判断するものではないため、具体的な対応は弁護士などの専門家にご確認ください。

目次

・コールセンターの通話録音は違法?

・通話録音は個人情報にあたる?

・録音していることを伝える義務はある?

・録音の告知文の例|場面別にそのまま使える文

・録音の開示義務はある?

・録音の開示請求を受けたときの対応手順

・録音データの保存期間と管理はどう決める?

・通話録音のよくあるトラブルと見直す点

・よくある質問

・まとめ

コールセンターの通話録音は違法?

コールセンターが自社の通話を録音すること自体は、違法ではないと考えられています。個人情報保護法には録音を禁じる規定がなく、個人情報保護委員会も、録音していることを相手に伝える義務までは負わないとの見解です。ここでは、その根拠と、録音が問題になり得る使い方を順に見ていきます。

個人情報保護委員会はどう説明している?

個人情報保護委員会は、通話内容が個人情報にあたる場合でも、録音していることを伝える義務までは負わないと説明しています。事業者向けのQ&Aで「顧客との電話の通話内容は個人情報に該当しますか。また、通話内容を録音している場合、録音している旨を相手方に伝えなければなりませんか」という問いに答えたもので、回答の要点は次の2つです。

1つ目は、通話内容から特定の個人を識別できる場合には個人情報に該当するという点です。2つ目は、個人情報に該当する場合、事業者は利用目的を通知または公表する義務を負うものの、録音していることについて伝える義務までは負わないという点です(出典:個人情報保護委員会 Q&A 1-10)。

つまり、法律が求めているのは「録音します」の一言ではなく、「何のために使うのか」を本人が知ることのできる状態にすることです。この違いを押さえておくと、告知文やプライバシーポリシーに何を書けばよいかがはっきりします。

盗聴と通話録音は何が違う?

盗聴として問題になるのは、通話の当事者ではない第三者が、他人どうしの通話をひそかに聞いたり記録したりする場面です。電気通信事業法第4条は「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない」と定め、有線電気通信法第9条も「有線電気通信の秘密は、侵してはならない」と定めています。どちらにも罰則があります(電気通信事業法第179条、有線電気通信法第14条)。

これに対して、コールセンターの通話録音は、通話の一方の当事者である企業が、自社の受けた電話や自社からかけた電話を記録するものです。第三者が他人の通話をのぞく行為とは場面が違うため、通常の業務としての録音がこれらの規定で問題になる場面は想定しにくいでしょう。ただし、通話の相手でない部署が業務と無関係に録音を聞くような運用は、後で触れる利用目的の制限や安全管理の問題になります。

違法になり得るのはどんな使い方?

録音そのものが問題にならなくても、録音の使い方や管理の仕方によっては個人情報保護法の義務に反するおそれがあります。注意したいのは次の4つの場面です。

決めた利用目的を超えて使う

個人情報保護法第18条第1項は、あらかじめ本人の同意を得ないで、特定した利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱うことを禁じています。たとえば「応対品質の向上のため」と公表して集めた録音を、そのまま新しい商品の営業リストづくりに使うと、この規定に触れるおそれがあります。

偽りの説明で録音する

第20条第1項は「偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならない」と定めています。「録音はしていません」と案内しながら実際には録音している、という運用は避けるべきです。

録音データの管理を怠る

第23条は、個人データの漏えい・滅失・毀損を防ぐための安全管理措置を求めています。誰でも録音を再生・ダウンロードできる状態や、退職者のアカウントが残ったままの状態は、管理の不備として問題になり得ます。

委託先の管理を任せきりにする

コールセンター業務を外部に委託している場合、第25条により、委託元には委託先を必要かつ適切に監督する義務があります。録音の保管場所や消去の方法を委託契約で決めておかないと、委託元の責任が問われかねません。委託の基本はコールセンターのアウトソーシングの記事でも整理しています。

通話録音は個人情報にあたる?

通話の内容から特定の個人を識別できるなら、その録音は個人情報にあたります。個人情報保護法第2条第1項は、個人情報を識別する手がかりとして「音声、動作その他の方法を用いて表された一切の事項」を含めており、声で名乗った氏名も対象です。どの義務がかかるかは、録音が次の3段階のどこにあたるかで変わります。

通話録音が個人情報・個人データ・保有個人データのどれにあたるかと、段階ごとに増える義務を示した図

段階 通話録音でいうと 主にかかる義務
(個人情報保護法)
個人情報 氏名や会員番号を名乗った通話など、
特定の個人を識別できる録音
利用目的の特定(第17条)
利用目的の通知・公表(第21条)
目的外利用の制限(第18条)
個人データ 電話番号・顧客番号・日時などで
特定の人の通話を検索できるように
整理された録音
上記に加えて
安全管理措置(第23条)
委託先の監督(第25条)
保有個人データ 自社が開示や消去の権限を持つ
個人データとしての録音
上記に加えて
利用目的などの公表(第32条)
開示請求への対応(第33条)

個人を識別できる通話は個人情報

コールセンターの通話では、多くの場合、お客様が氏名や会員番号、住所を口頭で伝えます。こうした通話の録音は、特定の個人を識別できるため個人情報です。録音システムが発信者番号や顧客管理システムの情報と自動でひもづけている場合も、ほかの情報と容易に照合できるため、個人情報として扱うのが自然です。

個人を識別できない録音は?

個人情報保護委員会は、通話内容から特定の個人を識別できない録音について「基本的には個人情報に該当しません」と回答しています。ただし、ほかの情報と容易に照合でき、それによって特定の個人を識別できるなら、全体として個人情報にあたることがあり、個別の判断が必要としています(出典:個人情報保護委員会 Q&A 1-11)。

同じ回答では、録音した音声から特徴を取り出し、話者認識システムなどで本人を認証できるデータに変換した場合、そのデータは個人識別符号にあたり、それ単体で個人情報になるとも説明されています。声で本人確認をする仕組みを検討している場合は、この点を前提に設計してください。

検索できる録音は「保有個人データ」になる

開示請求の対象は、個人情報のうち「保有個人データ」です。保有個人データは、検索できるように体系的に構成された個人情報の集まり(個人情報データベース等)を構成する個人データのうち、自社が開示や消去などの権限を持つものを指します(第16条)。

ここで分かれ目になるのが「検索できるかどうか」です。個人情報保護委員会は、録音した会話に氏名が含まれていても、その氏名で容易に検索できる状態に整理されていない限り、個人情報データベース等にはあたらないと回答しています(出典:個人情報保護委員会 Q&A 1-42)。反対に、通話録音システムで電話番号や顧客番号、日時から特定のお客様の通話を呼び出せるなら、保有個人データとして開示請求の対象になると考えて準備しておくのが安全です。

なお、以前は6か月以内に消去する短期保存のデータは保有個人データから除かれていましたが、2020年の改正(2022年4月1日施行)で保有個人データに含められ、開示や利用停止の対象になりました(出典:個人情報保護委員会 令和2年改正法の概要)。「すぐ消すから対象外」という整理は、現在は通用しません。

録音していることを伝える義務はある?

法律上、録音していること自体を伝える義務はありません。法律が求めているのは、録音を含む個人情報の利用目的を、本人に通知するか公表することです。そのうえで、業界団体のガイドラインや現場の実務では、通話の冒頭で録音を案内するのが一般的になっています。

法律が求めるのは「利用目的」の通知か公表

個人情報保護法第21条第1項は「個人情報取扱事業者は、個人情報を取得した場合は、あらかじめその利用目的を公表している場合を除き、速やかに、その利用目的を、本人に通知し、又は公表しなければならない」と定めています。また第17条第1項は、利用目的を「できる限り特定しなければならない」としています。

実務では、プライバシーポリシーに「お電話の内容は、ご用件の確認、応対品質の向上、従業員の教育のために録音することがあります」のように、録音と目的をあわせて書いておく方法が一般的です。通話の冒頭で目的まで読み上げれば「通知」、Webサイトに載せておけば「公表」にあたります。

業界のガイドラインはどう定めている?

一般社団法人日本コンタクトセンター協会の「コンタクトセンター業務倫理ガイドライン」(2026年9月1日改定)は、「7.通話録音情報の保護・開示等」で、音声を収集・利用するときは利用目的をできる限り具体的に特定し、できる限り広く公表するか本人に通知すること、音声の開示等の求めに応じる手続を定めて本人の知り得る状態に置くことを求めています(出典:コンタクトセンター業務倫理ガイドライン)。

法律よりも一歩踏み込んで「できる限り広く」と書いている点が特徴です。協会の会員かどうかにかかわらず、業界の標準的な水準として参考になります。

それでも冒頭で案内したほうがよい理由

義務ではなくても、通話の冒頭で録音を案内しておくと、後のトラブルを減らせます。お客様が録音されていると知らずに話した内容を、後日「言った・言わない」の確認に使えば、録音していたこと自体に不信感を持たれるおそれがあるためです。

もう1つの理由は、従業員を守る仕組みとしての役割です。2026年10月1日に施行された改正労働施策総合推進法の第33条は、顧客などの言動のうち社会通念上許容される範囲を超えたものから労働者の就業環境を守るため、相談体制の整備や抑止のための措置などを事業主に求めています。録音していることの案内は、こうした抑止策を考えるときの選択肢の一つです。義務化の全体像は義務化されたカスハラ対策の記事で解説しています。

録音の告知文の例|場面別にそのまま使える文

ここからは、通話の冒頭や受付の流れで使える告知文の例を、場面別に紹介します。いずれも「録音すること」「何のためか」を短く伝える形にしています。自社の利用目的に合わせて、言葉を入れ替えてお使いください。

場面 告知文の例 流す場所・
言う人
問い合わせ窓口
(標準)
「お電話ありがとうございます。○○カスタマーセンターです。応対品質の向上のため、この通話は録音させていただきます」 着信直後の
音声ガイダンス
目的を
詳しく伝える
「ご用件を正確に承るため、また応対品質の向上と従業員の教育のため、この通話を録音いたします。録音の取り扱いは当センターのホームページでご案内しています」 着信直後の
音声ガイダンス
申込・契約の受付 「お申し込み内容の確認のため、ここからの通話を録音いたします。あらかじめご了承ください」 申込の手続きに
入る前の
ガイダンスまたは
オペレーター
発信(こちらから
かける電話)
「○○株式会社の△△と申します。ご用件の確認のため、この通話は録音させていただいております」 名乗った直後の
オペレーター
AIで文字にする
場合
「ご用件の確認と応対品質の向上のため、この通話は録音し、内容を文字に変換して記録いたします」 着信直後の
音声ガイダンス
自動応答で
用件を録音
「担当者から折り返しご連絡するため、発信音のあとに、お名前とご用件をお話しください。お話しいただいた内容は録音されます」 営業時間外・
混雑時の
自動応答
迷惑行為への
抑止を兼ねる
「お客様との通話内容は、正確な対応と、従業員が安心して働ける環境づくりのため、録音しております」 着信直後の
音声ガイダンス

表の「自動応答で用件を録音」の例は、営業時間外や混雑時に、自動応答(IVR)でお名前と用件を録音して折り返す運用を想定しています。電話放送局でも、代表電話の自動応答で、あらかじめ登録した営業電話などには用件を録音していただき、折り返しが必要かを判断する運用をしています(出典:導入事例 TELハラ・カスハラ対策にも対応)。

告知文に入れる3つの要素

録音の告知文に入れる、録音すること・利用目的・詳しい取り扱いの確認先の3つの要素と、IVRのガイダンス・オペレーター・プライバシーポリシーでの伝え分けを示した図

告知文は短いほど聞き流されにくくなりますが、削りすぎると目的が伝わりません。入れておきたいのは次の3つです。

1つ目は「録音すること」そのもの、2つ目は「何のためか」という利用目的、3つ目は「詳しい取り扱いをどこで確認できるか」の案内になります。ガイダンスで3つ目まで入れると長くなる場合は、1つ目と2つ目を読み上げ、3つ目はプライバシーポリシーやWebサイトに書いておく分担が現実的です。

IVRのガイダンスで流すときの注意

録音の案内は、オペレーターが毎回口頭で伝えるより、IVR(自動音声応答)のガイダンスで流すほうが漏れがありません。着信した電話すべてに同じ文言が流れるため、「伝えた・伝えていない」のばらつきが出ないからです。ガイダンス全体の作り方は電話音声ガイダンス(IVR)の作り方で例文とあわせて紹介しています。

ガイダンスに入れるときは、次の3点に気をつけます。

最初の案内のすぐ後に置く

社名の後、メニューの読み上げの前に置くと、お客様が話し始める前に録音を知ることができます。メニューの後に回すと、すでに用件を話し始めた後に案内することになります。

1文を短くする

ガイダンスが長いと、途中で電話を切られる原因になります。録音の案内は1文、長くても2文に収め、詳しい説明はWebサイトに任せます。

文言を変えたら記録を残す

いつからどの文言を流していたかを記録しておくと、後で「録音の案内はあったのか」と問われたときに答えられます。ガイダンスの音声ファイルと変更日を一緒に保管しておくと確実です。

プライバシーポリシーに書いておくこと

告知文と対になるのが、Webサイトのプライバシーポリシーです。個人情報保護法第32条第1項は、保有個人データについて、事業者の名称・住所・代表者の氏名、すべての保有個人データの利用目的、開示などの請求に応じる手続(手数料を定めた場合はその額を含む)などを、本人の知り得る状態に置くよう求めています。

通話録音については、「録音すること」「利用目的」「開示などの請求の受付窓口と方法」の3つを書いておくと、告知文で伝えきれなかった部分を補えます。窓口の電話番号やメールアドレスまで書いておけば、現場のオペレーターが開示を求められたときにも案内先に迷いません。

録音の開示義務はある?

あります。録音が保有個人データにあたる場合、本人は個人情報保護法第33条第1項にもとづいて開示を請求でき、事業者は第2項により「遅滞なく」開示しなければなりません。ただし、開示しないことができる場合や、そもそも開示の対象にならない録音もあります。

第33条の条文を確認する

第33条第1項は「本人は、個人情報取扱事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データの電磁的記録の提供による方法その他の個人情報保護委員会規則で定める方法による開示を請求することができる」と定めています。第2項は、請求を受けた事業者は、本人が請求した方法(その方法での開示に多額の費用がかかるなど困難な場合は書面の交付)により、遅滞なく開示しなければならないとしています(出典:e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律)。

録音のような音声データの場合、本人が音声ファイルでの提供を求めれば、原則としてその方法で開示することになります。

開示の対象になる録音・ならない録音

開示義務がかかるかどうかは、録音の保存の仕方や中身によって変わります。現場で迷いやすい状況を、個人情報保護委員会のQ&Aにそって整理しました。

録音の状況 開示請求への対応 根拠
電話番号・顧客番号・
日時で検索できる
システムに保存
保有個人データとして
開示請求の対象になると
考えて準備する
法第16条・第33条
特定の人の通話を
探し出せる状態に
整理していない
個人データにあたらず、
開示の法的義務は
かからないと解される
Q&A 1-42・9-5
委託先のコールセンターが
保管している
特に定めがなければ
委託元の保有個人データ。
委託元が対応する
Q&A 1-56
録音に家族など
本人以外の声や
情報が入っている
本人以外の個人情報は
開示の対象にならない
Q&A 9-8
不当な要求を繰り返す人の
記録として保有している
存否が明らかになると
不当な行為を助長する
おそれがあるものは
保有個人データにあたらない
施行令第5条第2号・
Q&A 9-9

2行目の「探し出せる状態に整理していない」については、個人情報保護委員会が、特定の個人情報を検索できない状態であれば個人データにあたらず、開示の請求に応じる法的義務は課されないと解される、と回答しています(出典:個人情報保護委員会 Q&A 9-5)。ただし、いまの通話録音システムの多くは日時や番号で検索できるため、この例外にあたるケースは限られます。

開示しないことができる3つの場合

第33条第2項ただし書は、開示することで次のいずれかにあたる場合、その全部または一部を開示しないことができると定めています。

本人または第三者の権利利益を害するおそれがある

第1号は「本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合」です。録音にほかのお客様の個人情報が入っている場合などは、その部分を開示しない判断があり得ます。

業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある

第2号は「当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合」です。条文が「著しい」と書いているとおり、単に手間がかかる、気が進まないという理由はこれにあたりません。

他の法令に違反することになる

第3号は「他の法令に違反することとなる場合」です。

いずれかにあたるとして開示しない場合や、該当する録音が存在しない場合は、第33条第3項により、本人に遅滞なくその旨を通知しなければなりません。第36条は、その理由を説明するよう努めることも求めています。

「遅滞なく」とはどのくらい?

条文に日数の決まりはありません。個人情報保護委員会は、「遅滞なく」とは理由のない滞りを生じさせることなくという趣旨で、データの検索・集約などの作業が必要な場合は、その作業に通常必要な期間も考慮したうえで合理的な期間内に開示すればよい、と説明しています(出典:個人情報保護委員会 Q&A 9-12)。

なお、第39条は、本人が開示請求について訴えを起こすには、まず事業者に請求し、それが届いた日から2週間を経過していなければならないと定めています(事業者が請求を拒んだ場合を除く)。社内の目安として、受付から回答までの期限をあらかじめ決めておくと、対応が滞りません。

開示の方法は音声ファイルでよい?

本人が電磁的記録での提供を求めた場合は、それが困難でない限り、その方法で開示します(第33条第2項、施行規則第30条)。個人情報保護委員会は、ファイル形式や、記録媒体の郵送・メール添付・Webでのダウンロードといった提供方法は事業者が定めることができ、本人の指定に必ず応じる必要はないとしています(出典:個人情報保護委員会 Q&A 9-10)。

手数料はとれる?

とれます。第38条第1項は、開示の請求を受けたときに手数料を徴収できると定め、第2項は、その額を「実費を勘案して合理的であると認められる範囲内」で定めるよう求めています。個人情報保護委員会は、実費を予測して平均的な単価を算出して定めることが望ましく、業種やデータの種類によって違うため統一的な相場を示すことは難しいとしています(出典:個人情報保護委員会 Q&A 9-27)。手数料を定めたら、第32条第1項により、その額もプライバシーポリシーなどで本人が知り得る状態にしておきます。

録音の開示請求を受けたときの対応手順

開示請求は、多くの場合、お客様が電話口でオペレーターに「さっきの録音を聞かせてほしい」と伝えるところから始まります。現場で即答して音声を流したり、反対にその場で断ったりすると、本人確認の漏れや手続き違反につながります。受付から回答までを7つの手順に分けて、表にまとめました。

通話録音の開示請求を受けてから回答するまでの7つの手順を示した流れ図

手順 やること 根拠・注意点
1. 受付窓口と
方法を案内する
オペレーターはその場で再生せず、
開示請求の受付窓口と
請求の方法を案内する
法第37条第1項・
施行令第12条
(申出先・書面の様式・
本人確認・手数料の
徴収方法を定められる)
2. 本人か代理人かを
確認する
本人確認書類や、
代理人なら委任状などを
確認する
施行令第12条第3号・
第13条(法定代理人と
本人が委任した代理人)
3. 対象の通話を
特定する
通話した日時のめやす、
かけた電話番号、
用件などを聞いて
録音を探す
法第37条第2項
(特定に足りる事項の
提示を求められる。
特定を助ける配慮も必要)
4. 開示できない部分が
ないか確かめる
ほかのお客様の情報や、
本人以外の個人情報が
入っていないかを、
録音を聞いて確認する
法第33条第2項各号・
Q&A 9-8
5. 開示の方法を
決めて渡す
本人が求めた方法
(音声ファイル・書面など)で、
遅滞なく開示する
法第33条第1項・第2項・
施行規則第30条
6. 開示しないときは
通知して理由を伝える
全部・一部を開示しない場合や、
録音が存在しない場合は、
その旨を通知する
法第33条第3項・
第36条(理由の説明は
努力義務)
7. 対応の記録を残す 受付日・本人確認の方法・
開示した範囲と方法・
回答日を記録する
同じ請求や苦情が
続いたときの説明材料になる

手順1〜3:受付から対象の特定まで

最初の3つの手順で大切なのは、電話口の担当者にその場で判断させないことです。録音を聞かせてほしいと言われたオペレーターは、相手が本当に本人なのか、どの通話のことなのかを、その場では確かめきれません。受付の窓口を1つに決め、オペレーターは窓口と方法を案内するだけにすると、判断のぶれがなくなります。

第37条第4項は、手続を定めるときに本人に過重な負担を課さないよう配慮することを求めています。郵送だけでなくWebフォームやメールでも受け付ける、書式を簡単にするといった工夫は、この点からも意味のある対応といえるでしょう。

電話で本人かどうかを確かめる仕組みについては、生年月日や登録番号をプッシュ操作で入力してもらう方法もあります。録音の受付窓口でも同じ考え方が使えます。

手順4〜6:開示するかどうかの判断と回答

4つ目の手順では、録音を最初から最後まで聞いて、本人以外の個人情報が入っていないかを確認します。たとえば、お客様が通話の途中で家族の氏名や病歴を話している場合や、オペレーターが別のお客様の情報を読み上げてしまっている場合は、その部分の扱いを検討します。迷う場合は、開示の判断を法務担当や弁護士に相談してください。

5つ目と6つ目の手順では、回答の方法と期限を守ることが重要です。開示する場合も、開示しない場合も、本人に結果を通知するところまでが対応です。

オペレーターがその場で使える案内の例

現場のオペレーターが慌てないように、案内の文例を用意しておくと便利です。たとえば「録音のご提供をご希望ですね。お客様ご本人であることを確認したうえでご案内するため、受付の窓口から改めてお手続きをお願いしております。窓口の連絡先と方法をご案内してもよろしいでしょうか」のように、断るのではなく、正式な手続きに案内する言い方が基本です。応対の言い回しはコールセンターでクレーム対応を行うポイントや電話対応マニュアルの作り方とあわせて整えておくと、マニュアルに組み込みやすくなります。

録音データの保存期間と管理はどう決める?

個人情報保護法には、通話録音の保存期間を一律に定めた規定はありません。保存期間は、利用目的を果たすのに必要な期間を自社で決めます。第22条は、個人データを利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努めることを求めているため、「念のため無期限に残す」運用は避けたほうがよいでしょう。

保存期間を決めるときの考え方

保存期間は、録音を何に使うかから逆算して決めます。たとえば、応対品質の評価や研修に使うなら評価の周期、契約内容の確認に使うなら契約や取引に関する問い合わせが来うる期間、が目安になります。業界ごとの法令で記録の保存が求められている場合は、その期間も確認してください。

決めた期間は、社内規程に書き、録音システムの自動削除の設定とそろえておきます。規程では1年としているのに、システムには5年分残っている、という食い違いは、開示請求を受けたときに説明がつかなくなります。

安全管理で押さえること

録音データは、氏名や住所、ときには支払いに関する情報まで含む、まとまった個人データです。第23条の安全管理措置、第24条の従業者の監督として、少なくとも次の4つを決めておきます。

聞ける人を絞る

再生やダウンロードができる担当者を役割ごとに決め、異動や退職のときには権限を外します。誰がいつどの録音を再生したかを記録できる仕組みがあれば、問題が起きたときに経緯を確かめられます。

持ち出しのルールを決める

研修や会議で録音を使うときに、個人のパソコンや外部のサービスにファイルを移さないルールにします。研修に使う場合は、氏名や番号の部分を消した録音を用意する方法もあります。

委託先との取り決めを残す

委託先が録音を保管している場合は、保管場所、聞ける人、保存期間、契約終了時の消去方法を契約で決めておきます。第25条の監督義務を果たした記録にもなります。

漏えい時の報告の流れを決める

第26条は、個人の権利利益を害するおそれが大きい漏えいなどが起きたとき、個人情報保護委員会への報告と本人への通知を求めています。録音データが漏えいしたときに誰が判断し、誰が報告するかを事前に決めておきます。

AIで文字にした記録も同じように扱う

最近は、録音を音声認識で文字にしたり、AIで要約したりするセンターが増えています。文字にした記録や要約も、特定の個人を識別できるなら個人情報で、検索できる形で保存すれば保有個人データとして開示の対象になり得ます。音声だけでなく、テキストのデータも保存期間と権限の管理に含めてください。仕組みの全体像は、コールセンターにおける音声認識サービスや通話・会議のAI要約の記事で紹介しています。

通話録音のよくあるトラブルと見直す点

ここでは、通話録音をめぐって現場で起こりがちなトラブルを、起きていることと見直す点に分けて整理します。自社で似たことが起きていないか、行を探して確認してください。

起きたこと 考えられる原因 見直す点
録音を求められ、
オペレーターが
その場で断った
開示請求の窓口と
手順を決めていない
受付窓口を1つにし、
案内の文例を
マニュアルに入れる
録音されていると
知らなかったと
苦情を受けた
録音の案内が
オペレーター任せで
漏れていた
IVRのガイダンスで
全件に流す
開示を求められた通話が
見つからない
録音が日時や番号で
探せない、
または保存期間が不明
検索の方法と
保存期間を決め、
システムの設定とそろえる
研修で使った録音が
社外のサービスに
残っていた
持ち出しと
利用範囲のルールがない
利用目的に研修を含め、
研修用は氏名などを
消した録音を使う
録音を新しい
営業施策に
使いたいと言われた
公表した利用目的を
超える使い方になる
おそれがある
第18条を確認し、
必要なら本人の同意を
得る方法を検討する
委託先の録音の
扱いが分からない
委託契約で保管や
消去を決めていない
契約に保管場所・
権限・保存期間・
消去方法を入れる

どの行の打ち手も、新しいシステムを入れる前に、まず「利用目的」「告知の方法」「保存期間」「開示の窓口」の4つを文書にするところから始まります。この4つがそろっていれば、現場で判断に迷う場面の多くは手順書で答えられます。

社内でルールを整える順番

ルールづくりは、次の順番で進めると手戻りが少なくなります。最初は、利用目的を決めてプライバシーポリシーに書く作業です。次に、告知文をIVRのガイダンスやオペレーターのトークに入れます。そのうえで保存期間と聞ける人を決め、最後に開示請求の窓口と手順書を作ります。

利用目的を後から広げるのは難しいため、最初の段階で、品質管理・研修・内容確認・トラブル時の事実確認など、録音を使う場面を洗い出しておくのがポイントです。応対記録をVOC(お客様の声)として分析に使う予定があるなら、VOC分析の進め方も確認したうえで、目的の書き方を決めておきます。

2026年7月に公布された改正法も確認する

2026年7月17日に、個人情報保護法などの一部を改正する法律が公布されました。施行は原則として公布の日から2年を超えない範囲内とされ、個人情報保護委員会が政令・規則・ガイドラインの整備を進めています(出典:個人情報保護委員会 令和8年改正個人情報保護法について)。本記事の条番号は、2026年10月7日時点で施行されている条文にもとづいています。施行後は内容が変わる部分があるため、規程を見直すときは最新の条文とガイドラインを確認してください。

よくある質問

Q. お客様に「録音しないでほしい」と言われたらどうすればよいですか?

あらかじめ社内で対応の方針を決めておき、それに沿って案内します。録音を止められる仕組みがあるか、録音なしで受けられる手続きか、Webや書面での受付に切り替えられるかで、取れる対応が異なるためです。現場のオペレーターに判断を任せず、案内の文例を用意しておくと応対が安定します。


Q. オペレーターの声も個人情報になりますか?

オペレーターが名乗っている通話などで、特定の従業員を識別できるなら、その従業員の個人情報にあたります。録音を評価や研修に使うことは、就業規則や社内規程で従業員にも示しておくのが一般的です。お客様からの開示請求では、本人以外の個人情報は開示の対象になりません。


Q. 開示請求にはいつまでに対応すればよいですか?

法律は「遅滞なく」と定めており、日数の決まりはありません。個人情報保護委員会は、データの検索などに通常必要な期間を考慮したうえで、合理的な期間内に開示すればよいと説明しています。社内で受付から回答までの目安を決めておくと、対応が滞りません。


Q. 録音を警察や裁判所に提出してもよいですか?

個人情報保護法第27条第1項は、本人の同意なく個人データを第三者に提供することを禁じる一方、「法令に基づく場合」などを例外としています。どの依頼が例外にあたるかは、依頼の根拠となる法令によって変わります。個別の判断が必要なため、提出の前に法務担当や弁護士に確認してください。


Q. 録音した音声をAIの学習や分析に使えますか?

公表した利用目的の範囲に入っているかどうかで判断します。利用目的に含まれていない新しい使い方をする場合は、第18条により、原則として本人の同意が必要です。分析に使う予定があるなら、プライバシーポリシーに目的として書いておくことが出発点になります。


Q. 通話録音は何年保存すればよいですか?

個人情報保護法には、通話録音の保存期間を一律に定めた規定はありません。品質管理や研修、内容確認など、利用目的を果たすのに必要な期間を自社で決めます。業界ごとの法令で記録の保存が求められている場合は、その期間もあわせて確認してください。

まとめ

コールセンターの通話録音は、録音すること自体よりも、「何のために使うかを示しているか」「求められたときに開示できるか」で適法な運用かどうかが分かれます。録音の案内は法律上の義務ではありませんが、利用目的の通知・公表は義務で、検索できる形で保存した録音は第33条の開示請求の対象になります。

最初の一歩として、自社の録音について「利用目的」「告知の方法」「保存期間」「開示の窓口」の4つが文書になっているかを確認してみてください。文書がなければ、告知文の例と開示請求の手順表を下書きに使い、法務担当と一緒に自社向けに整えるところから始められます。録音の案内を全件に漏れなく流すには、IVRのガイダンスに組み込むのが確実です。株式会社電話放送局のDHK CANVASは、通話の録音や聞き取った内容の記録にも対応しています。弊社はISMS(ISO27001)認証とプライバシーマークを取得しており、録音を含む電話の自動応答の設計から運用まで伴走しています。具体的な使われ方は導入事例もあわせてご覧ください。

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監修者情報

メーカーのコールセンター運営管理に従事し、自らIVRを導入。
不要な入電を抑制しつつ売上向上を実現するなど、現場視点で成果を創出。電話放送局では営業マネージャーとして10年以上従事し、クラウド型IVRの業界シェア1位獲得に貢献。
コロナ禍におけるユーザーのデジタル行動変容を受け、マーケティング部門を立ち上げ、責任者に就任。インサイドセールスを統括し、営業部門との連携を強化。自動音声応答の導入、運用、集客、営業の幅広い経験を有する。
IVRおよびコールセンター市場における20年以上の知見を活かし、ユーザーの検索行動やニーズを深く理解したマーケティング戦略を展開。
検索連動広告の運用経験を基に、現場で役立つ実践的な情報を発信し、読者のビジネス成功を力強くサポートします。

監修者 前田泰延(株式会社電話放送局) マーケティング責任者 営業部営業推進課 課長 前田泰延

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